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執筆者の写真daisuke tanaka

出発。

2020年、12月。

仄かなオレンジの灯だけで閉まったカーテンの向こうから、不規則な白い光が通り過ぎていく。密かな話し声と寝息と、エンジンとタイヤの音が揺れている。

僕は、敬愛する友人の作品に会いに行った。

白い布をくぐると瞬間、入ることを躊躇う時間がそこに在った。

呑み込めない沈黙と、人間達がそこに居た。

夕方、ギャラリーの灯が消えた。わずかな青い光が少しずつ闇に沈んで、

そこに居る人間達の輪郭が失くなっていった時、感じた何かは僕にとって出発となった。

バス停に向かう帰り道、暗くなった河から鳥が飛び立ち、わずかな光を反射する水面に

波紋が広がっていた。

2021年、1月。

今、窓の向こうからひっきりなしに電車の音が聞こえる。

2020年、12月から、2021年、今日までいろんな時間と場所が交錯しながら過ぎ去り、

僕はもう戻らないと思っていた街に戻ってきた。

終わらせたプリント達と、まだ現像してないフィルムはそのままになっている。


何もかもが掴みどころを求めたまま、次の生活が始まった。

世の流れや、見えているところには何もないだろう。


動きながら、撮りながら、ここからまた問い続けようと思う。


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