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執筆者の写真daisuke tanaka

そのあと

よく行った海に3年振りに向かった。


砂浜は3年前よりも熱くて、隣にいた人の微笑みに安心しながら、

生ぬるい海に潜って眼を開いて泳ぐ。光の粒子がゆらゆら揺れて変わり続けている。


仰向けに浮かぶと、かすれた青空に鳥の声や父子の歓声が近付いては消えていく。

波打ち際に上がると、色とりどりの貝殼と石がどんどん拐われては

また戻ってくる。探し始めると止まらなくなって、大切な人を思い出す。


砂浜に戻ると、エメラルドグリーンの蝶が影になり、光の中を舞っていた。


砂浜で一人裸になって目を瞑る。徐々に光の熱が身体に沁み渡って雫が乾いていく。


波の音は消えずに立ち上がると、さっき歩いた砂の上にネズミが横たわっている。


しばらく眺めて、リュックの中からカメラを取り出して、もう一度覗き込む。

全く動かない。暑すぎて死んだのだろうか。わからないけど、出会ったので

僕は裸足のまま真上からシャッターを切った。瞬間、黒い影が横切った気配を感じた。


さっきより濃い青空を見上げると、鳥がゆっくりと降りて来て、美しい仕草で

ネズミを咥えたままふわりとそのまま旋回して、徐々に遠ざかって行ってしまった。


あっと言う間に何もなくなり、さっきと同じ砂浜だけが残った。

僕は何もなくなった砂浜をしばらく見つめて、カメラをリュックにしまい海岸に向かった。


その細くて白い掌の中で、濡れる深緑の石はキラキラ輝いて優しく光り続けている。


何度も波にぶつかり、もう一度海に潜って大声で叫んで見た。

ここはどこなんだろう。 これからどこに行くんだろう。


初めからそんな場所は存在しないのと知っていたのではなかったのか。 


小田原で数年振りに見た友人の彫刻は、ただただそこに存在していて、

いろんなものから離れた場所に浮かび上がっているようで、何度も首を傾げた。

ファインダーを覗いては、なるべく忘れないように消えて行った。


ギャラリーの帰り道、そのまま久しい海に向かった。

波の中から無数の黒い石が日が沈むに連れてガラガラと音を砕き、

段々、波と共に強くなっていく。


海の向こう、地平線に近くオレンジ色の太陽が沈んで行くのが見えた。

とても強い光だ。 日が沈むまで待とうと僕は岩の上に立つ。

僕の周りの光は弱まり、暗くなっているのに日は沈まない。

それどころかその輪郭は色を変えて、まん丸いそのままの姿で

地平線から少しずつ上がってきた。


黒くなっていく海に少しずつ、柔らかくて白い光の道が真っ直ぐに伸びていく。


オレンジ色の太陽はそのまま、真っ白な満月に変わってしまった。


暗闇の中でしばらく立ち尽くして、海に映って揺らぎ続ける白い光に目を凝らした。



スライドショーの中に映っていた子ども達や、僕が見つめていた大切な人、

大切な存在たちは、写真の中でも映像の中でも、遠い、遠い場所で留まり続けて

いるようだ。


いつでもすぐに、そのあと になってしまう。 ここにはもうない。


かつてでもない、いまでもない、この先でもない、


大いに揺れながら、そのあと を追いかけ続けるしかないのだろうか。


それは、いつまで続くだろうか。



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