波の向こうにはっきりと紅い陽が落ちていく。
辺り一面が徐々に暗くなっていくに連れて、胸が落ち着きながらざわめいた。
目の前の景色はまだ落ち切らないままにある。
柵を越えて岩場に降りて、砕ける波に近付きながら岩場に座った。
白い音が広がって、遠くに見える漁船のシルエットが深くなる。
麻痺しかけている感覚を確かめつつ、切れた小指が少しずつ痺れた重みを加えてくれた。
見上げるとまん丸い月はひたすらに明るくて懐かしい。
離れがたく海沿いの夜道を歩き、最寄りの知らない駅に向かう。
橋を渡る直前、街灯が反射する水面に一瞬生きものの音が響いた。
さっき撮った、きれいな鳩の死骸が見える。草むらに羽がたくさん飛び散っていた。
一見、何もないようで羽を開いたまま、形は未だそこに在る。
目の前に海が見える石のベンチに座って、一枚の油絵を横に置いた。
見つめる度に深く黒い写真達と、辿り着いた静かな仏壇の前へ。
新しく歩いた数々の路地と、故郷の海はどこまでも繋がっている。
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