2018 10 26
海をみた。
小石が波にさらわれて、ゴウ、ゴウ、という地鳴りと共に
眼の前の海は 繰り返し、おおきくおおきく揺れていた。
黒い石を真っ白な波が、引き連れては洗い流して消えていく
波の響きと風の中で、新潟を思い出していた。
それは、帰りみちの続きの風景だった。
昨日、僕はクロヌマタカトシさんの木彫りに会いに行った。
日が暮れていく中で3匹の狼に誘われて、周りに佇むひと。
獰猛さと優しさが、少しずつほぐれていく。
「奥にもございますので、みてらしてくださいね」
と言われた時、チラと奥の和室が眼に入り、一瞬、少し怖くなった。
靴を脱いで、暗がりの中にそっと膝をついて見つめた。
大きな流木が、何かに突かれたように形になり、そこに在った。
蠢きと自然がそのまま、崩されないまま「白鳥と牛」という生き物の形になって、
つくることを超えた何か、と、深い、深い、密度となってそこに残っているような、
そんな感覚を覚えた。 しばらく動けなかった。
ああ、このひとはいのちをけずって、これをかたちにしたのだろうな、、
とただ、そう感じた。
展示に溢れ、情報に溢れ、手法に溢れ、写真も何もかも
ただただ、本当に突き動かされる純粋さで、あまりに素朴なものが、
今、どれだけ在るというのか。これは今、自分への言葉でもある。
これ以上は書かない。
ギャラリーを出ると、海が見たいと感じた。
そう言えば、そこは海の近くだった。
石に刻まれた白秋の詩 尾崎一雄の気配 鳥の鳴き声を抜けて
暗くなるまで海をみた。 いろんなものが波の音に消された。
「とにかくハッピーにならなきゃ駄目だよ、ハッピーね」
バルセロナの女は去り際の瞬間、真顔で僕の眼をみて笑顔で去っていった。
昨日は、クロヌマさんの展示が大きな軸となって、
僕にとって、またはじまりの一日になった。
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