top of page
検索
執筆者の写真daisuke tanaka

燻された日

友人と2人で焚き火をした。


細い枝が少しずつ灰になり、小さい炎が僕達の真ん中で揺れては光り、

すぐ傍では滝の音が流れ続けた。

一本の骨がゆっくりと色を変えながら燃えていく。


光がほとんど失くなりかける度に、友人が細く優しい息を吹きかけると

仄明るく透けた木々の中から、再びきらきらと炎が瞬き、息を吹き返し

無数の灰が粉雪のように舞い上がった。


僕も友人に習いそっと静かに大きく深呼吸しながら、何度も息を吹きかけると

その度に光が瞬いて、近付くとボウっと顔がとても熱くなる。

それでも深呼吸を止めずに自分の中に在る限りの息を大きく、ゆっくりと

静かに吹き続けていると、時折身体の芯が新しく目を覚ますような心持ちになっていった。


立ち上がると、少しだけ景色が薄れてまた元に戻り、

友人が「出し切りましたね」と言うと、笑った。


帰り道、二人で沢山の石を踏みしめながら河原を歩いた。滝の音は遠くなり

友人が抱えているたったひとつの流木は、すでに彼の手に馴染み始めていた。

そこには、何もなくて時間のないものが在った。


橋の上から河原を見下ろした時、僕は緑のない道を海に向かって歩いた景色を

思い出していた。 風が強くなった。


日が暮れた食堂で、全身から燻された香りと共に鉄板焼き定食を無心に食べながら

何度も笑った。食堂を出た駐車場から山の上を見上げると、深みを増した群青色の空に

ほんのり丸い月が光っている。闇になりかけている黒い山の稜線の麓を、ゆっくりと列車が通り過ぎて行く。


じわりと深みを増すような刻を共に出来た喜びを、僕は彼の横で噛み締めていた。





閲覧数:83回0件のコメント

最新記事

すべて表示

そのあと

新しい海

波の向こうにはっきりと紅い陽が落ちていく。 辺り一面が徐々に暗くなっていくに連れて、胸が落ち着きながらざわめいた。 目の前の景色はまだ落ち切らないままにある。 柵を越えて岩場に降りて、砕ける波に近付きながら岩場に座った。...

みえない白線

駅前のベンチでアイスクリームを食べる父と娘。 親子を交互に見つめながら、僕はアイスクリームを運んだ。 93歳の誕生日を迎えた白髪の女性は、浴槽に浸かりながら 遠い目から急に僕を見つめて、「あっという間だから。。好きなことやらないと、...

コメント


bottom of page